2008年4月16日水曜日

蟲師

蟲、それは幽霊や妖怪ではない異形の原生体で、人に良くも悪くも影響を与える摩訶不思議な存在。この蟲が引き起こす現象を解明しながら、患った人々を癒し処方する蟲師たち。そんな蟲師のギンコを主人公にした漆原友紀原作の「蟲師」は、文句なしに面白い。キャラクターの持つ雰囲気や、1話完結型の各エピソードを読み終わった後のちょっと切ない余韻は、他の漫画では味わえない感覚だった。
やはりそれもこの漫画を好きになった理由の一つだろう。
 

2005年に放映されたテレビアニメ版も、(ずいぶん昔だが・・)深夜という時間帯もプラスに作用して、静寂が身体に染み入るような完成度の高い作品であった。


 これをジャパニメーションの巨匠として世界に名高い大友克洋が映画化、しかも実写で、と聞いたら期待と不安が入り混じるのは当然だろう。と思いつつもいそがしくてなかなか見れなかったがつい先日DVDで見ることができた。


 映画は聴覚を失くした村人たちを苦しみから解放する「柔らかい角」、蟲に憑かれながらもそれを文字にすることで生きながらえる淡幽とのエピソード「筆の海」、母親と死別したギンコを育てたぬいと、ギンコの過去が明かされる「眇(すがめ)の魚」をベースにしている。

 やはり原作ファンにとって、一番気になるのはギンコに扮するオダギリジョーのハマリ具合。真っ白い髪からのぞく片目という風貌に、最初こそは「鬼太郎……」と思わずツッコミをいれたくなるが(笑)およそ100年前の設定ながら、ひとり洋風な佇まいでも浮いた存在にならないのはオダジョーの魅力に拠るところが大きい。やはりオダギリジョーってすごいんだな、とあらためて思った。

 特筆すべきは、大自然のロケーションを生かした映像美。監督があくまでこだわったというだけに、風のざわめき、森の緑の深さ、さらに闇に蠢く“何か”の気配すら感じさせ、日本にまだこれほどの自然が残っていたのかと嬉しくなるほどだ。ちなみにロケ地は滋賀県、岐阜県、福井県、富士の樹海など。蟲が文字となって動き出す原作の名シーンも、VFXで違和感なく再現されている。

 正直、原作を読んでいないと分かりづらい。だが、ゆったりと流れる時間や日常に潜む静けさが心地良く、かつてこの国には人知を超えた蟲の存在がいた――そんな錯覚をしばし起こさせてくれる作品である。原作読んだ人はもちろん、読んでない人にもぜひ見てほしい作品だ。

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